研究概要
半導体結晶欠陥のWebデータベース・システム
Whole system of "EPR in Semiconductors" database. Concept and features of this database were reported in T. Umeda et al [30], and its full instructions are updated in the above URL.
「EPR in Semiconductors」システム.半導体中のEPRセンターのスピンハミルトニアンパラメータのデータベースと,EPR-NMRcソフトウェアによるEPRスペクトル・シミュレーションサービスを公開中.設計ポリシー及びシステムの特長は論文[30]に,具体的な操作方法はデータベースのHelpページに最新情報が詳しく載っています.
私達のみならず半導体結晶を研究している全ての研究者達が,インターネット技術を使って,研究成果をお互いにもっと効率的に利用できるような新しい知識情報基盤を整備しようという狙いで,半導体結晶欠陥に関するWebデータベース・システムを立ち上げて運用を開始した.現在,EPRにおいて公開中である.もちろん内容は専門家向けのもので一般受けするような類のものではないが,原則として,専門家,非専門家を問わず誰でも自由にアクセスして,半導体の結晶欠陥の専門的なデータを閲覧・検索したり,高度なシミュレーション機能を利用できるようになっている.
このデータベースの開発は2004年9月からスタートしたが,その後多くの整備・改良を重ね,2005年7月に開かれた半導体結晶欠陥の国際会議ICDS-23にて正式に公開を行った.このデータベースは,いわゆる数値やテキストを収録したデータベースとは違い,実際の電子スピン共鳴の実験で半導体結晶欠陥がどのように見えるのかという視点でデータが眺められるようになっている.もちろん,データを数値一覧表として見たり,数値検索をしたりすることも可能である.その設計ポリシーや機能の詳細についてはT. Umeda and S. Hagiwara et al. [30]で詳しく報告している.公開にあたっては,使用しているシミュレーションソフトウェアEPR-NMRcの開発グループ(カナダSaskatchewan大学のJ. A. Weil教授)から学術用途という事で無料使用の許諾を得た.
2006年3月時点のデータ登録件数は約320件である(昨年の同時期は約210件).これらのデータは,過去の私達+他の研究者の論文から選び出して,私達の手作業で登録したものである.今年度以降はデータの登録もさることながら,インターフェースの改良などに注力していきたいと考えている.このWebデータベース運営の最大の目標は,世界中の研究者が自分のデータを自らWebデータベースに登録して,さらにお互いにデータのメンテナンスを随時行い合うことで,データベースがあたかも半自立的に管理・拡張されていくような人を含めたコミュニティ・システムの確立にあるからである.そのためには多くの研究者が使い易いようなインターフェースの研究開発が大変に重要である.また,サイトの存在を知らせる宣伝活動や,個々の研究者に参加を促すようなダイレクトメール的な働きかけも重要であり,来年度に幾つかのアイデアを実施したいと考えている.とりあえず今年度は,国際会議での発表後,インターネットの主要な検索エンジンで直ちに見つかるようにGoogle,Yahoo,msnへの登録を行った.ちなみに,データベースへのアクセスをwebalizerRで見てみると,Visits数(およそユーザー数を表す)で1日平均で約130,30数か国からのアクセスがある.アクセスの半数はアメリカからで,細かな分析はしていながGoogleなどからのCrawlerが多数来ているようである.
現在のデータベース(EPRデータベース)は,電子スピン共鳴(EPR)法による半導体結晶評価に特化してデータが登録されている.しかし,半導体を調べる実験手段は他にも数多くあり,例えばPhotoluminesence(PL)法やDeep Level Transient Spectroscopy(DLTS)法,Cathode Luminesence(CL)法,電気測定法,電子顕微鏡,X線回折,Positron Annihilation Spectroscopy(PAS)法,理論計算シミュレーションなどで,これら多くの実験法による結果がリンクしあって初めて半導体を理解することができる.したがって,半導体の研究者全てにとって有用な知識情報基盤とするためには,EPRデータベースだけでは足りない面がある.そこで,「文献データベース」をもう1本の柱として立ち上げることを計画している.これは,半導体結晶欠陥全般について学術論文を収集して,普通の学術誌データベースでは調べるのが難しかった検索,例えば欠陥同士の関連や,実験手法同士の関連などを容易に調べることのできるようなサービスを提供しようというものである.関連付けは専門家が手作業で行う.EPRデータベースと同じく,多くの専門家の参加を促して,関連付けのメンテナンスをWeb上で同時多発的にできるような仕組みを現在開発中である.このような活動が軌道に乗れば,半導体研究に関わる全ての人にとって役に立つ知識情報基盤が作り上げられると期待される.また,その運営自体が知的コミュニティ基盤に関する実践的な研究例になるのではと期待している.