研究概要

ダイヤモンドの研究

n-type diamond electrical property Temperature dependence of Hall mobility for phosphorus doped diamond films with phosphorus concentrations of 7×1016 and 5×1017 cm-3 (M. Katagiri et al [20]).

リンドープによりn型化を実現した高品質ダイヤモンド薄膜の電気特性.低濃度リンドーピングで660 cm2/V・sの高移動度n型ダイヤモンドを作ることに成功した(物質・材料研究機構と筑波大学,論文[20]).

defect reduction in p-type diamond Reduction in the H1 defects (hydrogen-vacancy-related defect in p-type diamond films) confirmed by EPR measurements (N. Mizuochi et al [38]).

ホウ素ドープp型ダイヤモンドの高品質化.水素-空孔関連欠陥を大幅に低減することが可能になった(産業技術総合研究所と筑波大学,論文[38]).

ダイヤモンド(炭素の結晶)は古来、宝石として知られているが、その優れた物性値から、近年、究極の半導体材料として注目されている。ダイヤモンドは本来,電気を流さない絶縁体であるが,ドーピング(別の元素を微量添加する)を行うことで自由に電気を流すことのできる半導体へと変身する.ダイヤモンドの強力な短波長紫外線発光(自由励起子発光:235nm)を利用できれば,次世代光ディスクである青色DVDを遥かに上回る超高密度光ディスク記録が実現できる.また,ダイヤモンドには高出力マイクロ波デバイスとしての期待もある.近年、メタンと水素(及びドーピングガス)雰囲気中のマイクロ波プラズマ化学気相堆積(CVD)法により、著しい合成技術の進歩がなされてきた。特筆すべき点として、世界的な合成技術開発研究がつくばでなされている点が挙げられる。しかし、実用化には更なるダイヤモンドの高品質化が必要である。当部門では主に電子スピン共鳴法(EPR)を用い、結晶の高品質化や電気的・光学的特性向上に資する研究を、学術上及び応用上の観点から行っている。(総説記事:N. Mizuochi et al. [e1], [e2])

リン原子のドーピングは,つくば市にある物質・材料研究機構(物材研)グループ(神田久生研究員、小泉聡研究員等)が1997年に世界で初めて(111)基板を用いて成功し,現在でも高品質n型結晶合成において世界をリードしている(M. Katagiri et al. [13] [17] [20]).当部門構成員の磯谷教授は、ドーピング成功の初期段階から物材研と連携してダイヤモンド結晶中に入ったリン原子の様子を原子レベルで観察する研究に着手していた.そして,電子スピン共鳴法により世界で初めて,このリン原子を観察することに成功した(J. Isoya [c12]).さらに詳しくリンの状態を観察すると,リン原子がダイヤモンド結晶の炭素原子を置き換えて結晶に入ると,2種類の環境の異なる状態ができることが分かった(M. Katagiri et al. [c26]).今後,Budapest工科大学のGali博士にスーパーコンピューターを駆使した大規模第一原理計算シミュレーションを行ってもらい,私達の実験結果と比較からダイヤモンド結晶中のリン原子の詳しい挙動を明らかにする予定である.

一方,つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)ダイヤモンド研究センター(山崎聡総括研究員等)では、短波長紫外線発光特性の優れたダイヤモンド結晶が合成され、デバイス化技術においても世界をリードしている。ドーピングに関してはp型ドーピング(ダイヤモンドの場合はホウ素を入れる)で世界最高のホール移動度を実現し、さらに2005年、世界で初めて(001)基板を用いたリン原子のn型ドーピングに成功している。当部門では産総研と連携し、CVD法で合成された高品質ダイヤモンドのバルク中において、水素関連欠陥を電子スピン共鳴法により観測し、このCVD膜特有の欠陥が量的に支配的に存在することを定量的に明らかにした。(N. Mizuochi et al. [15, 16])さらに、この水素関連欠陥の低減化に関しては、合成中のメタンガスの濃度を低くし、合成速度を抑えて合成すると、著しく低減されることを電子スピン共鳴法により定量的に明らかにした。また、その低減化機構として、表面近傍における空孔欠陥の関与した機構を提案した。(N. Mizuochi et al. [38])さらに光学特性に関して、水素関連欠陥濃度と自由励起子発光強度(235nm)に相関関係があることを実験的に見出し、発光強度の内部量子効率を定量的に議論し、水素関連欠陥の自由励起子発光強度(235nm)に与える影響について明らかにした。(N. Mizuochi et al. [38])最近では、合成に用いるガスに同位体ガス(重水素ガス)を用いると結晶高品質化がなされることを見出している。(N. Mizuochi et al. [d47])

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