研究概要
シリコンカーバイドの研究
Defects and impurities in 4H type SiC identified by our group. Type (italic), label (square field), and electronic charge (-1, 0, +1) of each defect center are shown. These defects and impurities influence greatly on electronic, optical, thermal, and semi-insulating properties of this wide-band-gap semiconductor.
4HタイプSiCの結晶構造と,私達のグループにより同定された欠陥やドーパント.これらの欠陥は半絶縁性の発現や,その他の様々な電子的・光学的性質に深く結びついている.
Photo EPR study on various defects observed in irradiated n-type 4H type SiC. Using this technique, we can identify atomic structure of a defect as for the case of usual EPR spectroscopy as well as can examine electronic levels of the defect. Detailed explanations are given in Refs. 22 and 39.
n型4HタイプSiCで見られる様々な照射欠陥に対してphotoEPR分光を適用した例.この分光データから欠陥のエネルギー位置を求めることができる.詳しい解析は論文[22],[39]にある.
シリコンカーバイド(SiC)は,ワイドギャップ半導体と呼ばれる特殊な半導体の1つで,高出力のマイクロ波デバイス(無線通信用)や超低損失のパワーエレクトロニクスデバイス(様々な電源の基幹部品となる)として非常に有望な素材として90年後半から脚光を浴びている.SiCの重要な特長の1つは,現在主流のシリコンと同様に,単結晶ウェハが得られる点にある.このため,窒化ガリウム(GaN)といった他の有望なワイドギャップ半導体のベース基板としても魅力的な材料になっている.単結晶ウェハ作製技術は急速な進歩を遂げており,一昨年には”Powered by Crystal”と題してNature誌の表紙を飾ったことはまだ記憶に新しい(D. Nakamura et al., Nature 430, 1009 (2004)).しかしながら,デバイスの量産・実用化のためには,低コストでデバイスを作製する技術やデバイスの劣化問題の解決などが必要である.それらの課題は結晶の品質(結晶中の欠陥)と密接に関係しているため,私達の評価技術が大きな役割を果たすことができる.取り組んでいる課題は,低コスト半絶縁性SiC単結晶ウェハ成長機構の解明,高効率n型(リン)ドーピング機構の解明,SiC-SiO2界面欠陥の解明などである.
SiC-SiO2界面
SiC-MOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)は、高周波・高出力デバイスとして期待されているが、界面欠陥の存在のために高速スィッチング素子としての本来の性能がでない現状にある。我々はESR法を用いてSiO2/SiC界面欠陥を同定した(J. Isoya et al. [1])。このシグナルをモニターとして用いることにより、界面欠陥低減技術が開発され、炭化珪素MOS-FET実用化の課題が解決されることが期待される。
半絶縁性SiC
半絶縁性SiC単結晶ウェハは,SiC上に作られるデバイスの性能を最大限に引き出すことができるため,低コストでこの基板を作れるようになれば産業的インパクトが非常に大きい.普通のSiC単結晶は半絶縁性を示さないが,ある特殊な結晶成長条件では何らかの結晶欠陥が結晶中に誘発され,これが半絶縁性の起源となることが分かっている.しかし具体的なメカニズムは判っておらず,この分野におけるホットトッピクスとなっているため,その解明を目指して研究がスタートした.研究は伊藤久義・森下憲雄・大島武氏(日本原子力開発機構,主に単結晶への電子線・イオン照射を担当),N. T. Son博士(スェーデンLinkoping大学,私達と共に測定を担当),A. Gali博士(ハンガリーBudapest工科大学,理論計算を担当),M. Bockstedte博士(ドイツElrangen大学,理論計算を担当)等と一緒に行っている.これまでに判明した結果をまとめると,およそ4種類の結晶欠陥が半絶縁性の原因として重要であることを突き止めた.
- シリコン空孔: VSi-N. Mizuochi et al. [6] TV2a(歪んだVSi-)N. Mizuochi et al. [3] [26]
- 炭素空孔: VC+(EI5/EI6)T. Umeda et al. [9] [10]
- シリコン-炭素複空孔: VSiVC0(P6/P7)N. T. Son et al. [27]
- 炭素アンチサイト-空孔ペア: CSiVC-(SI5)T. Umeda et al. [39] [c27] [c29]
ドーピング
SiCの特長はシリコン同様にイオン注入によるドーピングが可能な点にある.これによりプレナーPlanar型の微細デバイスの作製が可能になる.しかし元々ワイドギャップ半導体であるSiCにドーピングするのはそれほど容易なことではない.特に低抵抗化を図る高濃度ドーピングはn型,p型ともに課題がある.n型の場合の高濃度ドーピングは一般的な窒素ではなくリンが代わりに用いられる.SiCの場合,ドーパントはSi置換かC置換か,さらにはヘキサゴナル結晶中の不等価サイト(kサイト,hサイト)のどちらを置換するかで様々なバリエーションがあり,それぞれイオン化エネルギーが大きく異なってくる.リンドナーの場合どうなるかは今まで調べられていなかったため,私達のEPRの技術を使って詳細な研究を行った( J. Isoya et al. [4] [7]; N. T. Son et al. [28] [21]). また窒素ドナーについても詳細な研究を発表している( N. T. Son et al. [18]).
外国人研究員の招聘(平15)
N. T. Son(Department of Physics and Measurement Technology, Linkoping University, Sweden) 招聘期間2003.12.15〜2004.3.20
Son博士はSiC結晶研究における指導的研究者で、SiC結晶基板の2大メーカーであるOkmetic社(スェーデン)及びCree社(アメリカ)と連携し、デバイス応用上極めて重要な半絶縁性基板の開発に取り組んでいる。SiCに関する私達のこれまでの研究成果を生かすため、彼を招聘し、半絶縁性基板に関する共同研究を行った。